ブラックパステル / Black Pastel
黒〜濃褐色の地に金色・錆色の模様が映えるモルフ。スーパー体やシナモンとの組み合わせには形態異常の懸念があります。
このモルフについて
ブラックパステルとは
ブラックパステル(Black Pastel)は、黒〜濃褐色の地色と金色・錆色の模様がつくる、深いコントラストを特徴とするボールパイソンのモルフです。体色だけでなく、体側模様や背中の模様のつながり方にも変化が見られます。
1コピーでも表現が現れ、2コピーでは通常の柄が大きく減った「スーパーブラックパステル」になります。不完全顕性という扱いは、査読論文で扱われた実個体の記述にも見られます。【A:遺伝形式の記載】Boothほか、2014
「ブラックパステル」は、単に黒いボールパイソン全般を指す言葉ではありません。シナモンに似た表現を示しますが、親の由来や遺伝情報を区別して扱います。GHI、ブラックヘッド、マホガニーなども、暗く見えるという理由でブラックパステルにまとめることはできません。
スーパー体やシナモンとの組み合わせには、形態異常をめぐる注意点があります。暗い表現の作出を考える前に、「健康・繁殖上の注意」も確認してください。
資料区分の見方
【A】査読論文、【B】大学・獣医・専門機関の資料、【C】作出者・繁殖者・検査提供者の一次情報、【D】図鑑などの二次資料です。区分は資料の種類を示し、その資料に含まれるすべての主張の確かさを保証するものではありません。繁殖観察と分子レベルの実証も分けて記載します。
特徴・見分け方
地色と体側の模様
見るポイントは、地色の黒さだけでなく、明るい模様との境界と配置です。黒〜濃褐色の地に、金色・錆色〜褐色の体側模様が残るのが代表的な表現です。体側のエイリアンヘッドが連なったり、形が崩れたりする個体もいます。
背中の明るい模様は、つながった帯状に見える場合と、途中で切れたり減少したりする場合があります。頭部の暗さ、体側の模様、背中の模様を合わせて確認します。【D:代表的な外見の整理】World of Ball Pythons
シナモンとの見分け方
ブラックパステルとシナモンはよく似ています。ブラックパステルでは暗色部と模様のコントラストが強く見え、シナモンより体側の色抜けが少ないと記述されますが、これは傾向です。「黒ければブラックパステル、茶色ければシナモン」といった一つの基準では判定できません。【D:外見上の傾向】World of Ball Pythons
他モルフを含む個体では、明るさや模様が大きく変わります。幼体と成体、脱皮前後、照明や写真の色補正による違いもあるため、同じ条件の写真と親情報で比較することが大切です。
表現と遺伝情報を照合する
まず親個体名、由来、兄弟個体、繁殖履歴を確認します。脱皮殻検査を利用する場合は、検査対象の名称・系統と結果を照合します。
RGIの公式取扱窓口Cltchには「Black Pastel」「Black Pastel – Barnhart」「Cinnamon」が別項目として掲載されています。見た目が似ていても、検査名まで同一とは限りません。【C:提供中の検査項目】Cltch/RGI検査案内
検査結果も万能な外見判定ではありません。対象外の変異や系統を含めて何を判定できるかは、検査提供者に確認する必要があります。【C:検査対象と限界】RGIの検査グレード説明
遺伝・アレル関係
不完全顕性とコピー数
ブラックパステルは不完全顕性として扱います。1コピーのヘテロ接合体に表現があり、同じアレルを2コピー持つホモ接合体はスーパーブラックパステルです。業界で使われてきた「Co-Dom」という呼び方とは区別して理解すると、遺伝を整理しやすくなります。【A:実個体の不完全顕性表記】Boothほか、2014
ここでは説明用にBPをブラックパステル、+を野生型アレルとします。
・BP/+:ブラックパステル
・BP/BP:スーパーブラックパステル
・+/+:このブラックパステルアレルを持たない個体
1コピーでも表現するため、ClownやPiedなどの潜性モルフの「見た目には現れないhet」と同じ意味で扱わないことが大切です。遺伝学上、1コピー個体がヘテロ接合体であること自体は変わりません。
シナモンとのアレル関係
繁殖分野では、ブラックパステルとシナモンは同じ遺伝子座の異なるアレルとして扱われています。両者を1つずつ持つ組み合わせが「8 Ball(エイトボール)」です。
これは、別々の遺伝子座のモルフを重ねた通常の2遺伝子コンボとは異なる、複合ヘテロ接合体という整理です。BP/Cinnamonという組み合わせを「ブラックパステル2コピー+シナモン2コピー」と読むことはできません。【C:繁殖上の対立関係の解説】Warwick Von Hagen、Justin Kobylka編集、2016
同じ遺伝子座であることと、同じDNA変異であることも別です。古い資料にある「同じもの」「別ライン」という表現だけで、現在のすべての系統を一つの変異にまとめることはできません。
原因遺伝子と検査で分かること
ブラックパステル、Barnhart系ブラックパステル、シナモンの検査提供は確認できます。一方、今回照合した公開一次資料からは、これらすべてについて原因遺伝子名・変異配列・各系統との対応まで検証できませんでした。そのため、この図鑑では原因遺伝子名を推測して埋めません。【C:検査項目】Cltch/RGI
「検査がある」「繁殖でアレル関係が支持される」「分子機構が論文で示される」は、それぞれ別の情報です。公開された分子情報を確認できた段階で更新します。
作用・表現型への影響
暗色と模様を変える作用
ブラックパステルでは、地色の暗さ、明暗の境界、体側模様の形などが変わります。スーパー体では通常の柄が大きく減り、濃褐色〜黒に近い表現になります。こうした表現の違いは、繁殖者によるスーパー体・各種コンボの観察記録にも残っています。【C:表現の観察】Ralph Davis Reptiles、2005年追記
ただし、外見が黒くなったという観察から、直ちに「メラニン量だけが増えた」「特定の色素細胞だけが増えた」と決めることはできません。暗色部の濃さと広さ、明るい模様が残る面積を分けて見る必要があります。
細胞・分子レベルの説明には限界がある
パイソン類の色素関連遺伝子を比較した2016年の研究は、色素形成に関わる候補遺伝子や調節領域を調べています。しかし、ブラックパステルの原因変異を特定し、皮膚の色素細胞を測定して作用を実証した研究ではありません。論文にMC1RやMITFなどが登場することを、そのままブラックパステルの原因遺伝子がそれらである根拠にはできません。【A:研究が扱った範囲】Irizarry・Bryden、2016
現段階の説明では「ブラックパステルによる暗色・模様の変化」という観察事実を中心にし、細胞数や色素合成量の具体的な変化は断定しません。
他遺伝子との相互作用・コンボ
パステルと組み合わせる
ブラックパステルとパステルの組み合わせは「Black Pewter(ブラックピューター)」と呼ばれます。シナモンとパステルのPewterとは構成を分けて記録します。名前にPastelが入っていても、ブラックパステルが普通のパステルの暗い個体を意味するわけではありません。【C:コンボの繁殖者記録】Ralph Davis Reptiles
クラウンプロジェクト
Black Pastel Clownは、クラウンの模様にブラックパステルの作用を加える組み合わせです。単体のブラックパステルと同じ模様がそのまま残るとは限りません。
Royal Constrictor DesignsにはBlack Pastel Clownの繁殖個体記録があり、Justin KobylkaはBlack Pastel Leopard ClownやGHI Black Pastel Clownの作出個体を公開しています。複数モルフの作用を比較するときは、同じClown系の基礎コンボを基準にすることが重要です。【C:実個体・作出者記録】Royal Constrictor Designs、JKRのLeopard Clown作出記録、JKRのGHI Clown作出記録
パイドプロジェクト
Black Pastel Piedでは、色柄が残る部分の暗さと白い部分の配置を合わせて楽しめます。Justin Kobylkaは、自身のPied繁殖経験から、Black Pastelを白い部分が増える傾向のあるモルフの一つに挙げています。ただし、これは白い面積を個体ごとに保証する法則ではありません。【C:繁殖者の観察】Justin Kobylka、2014
「Panda Pied」は通常、Super Black Pastel Piedを指します。ブラックパステルを1コピー持つPiedとは区別が必要で、スーパー体の健康上の懸念も引き継いで考えます。【C:名称と構成の実個体記録】Royal Constrictor Designs
8 BallやPanda Piedは組み合わせを理解するために掲載しています。黒い表現を得るための安易な繁殖推奨ではありません。
繁殖での使い方

ブラックパステルの観察・構成・親選びを整理した説明図です。
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黒さをどう見せたいかで選ぶ
ブラックパステルは、単体の暗さを残すだけでなく、Clownの模様やPiedの白い部分との対比を作るために使えます。最初に、黒い背中のラインを見せたいのか、体側の褐色や金色を残したいのか、白と暗色の対比を強くしたいのかを決めると、親を選びやすくなります。
Black Pastel Clownを目標にする
Clownでは、頭部の模様、背中の暗い帯、体側に残る柄の形を見比べます。Black Pastel Clownの実個体や、Black Pastelを含まないClownを基準にすると、追加したい暗さや模様の違いが分かりやすくなります。Royal Constrictor DesignsにはBlack Pastel Clownの繁殖個体記録があります。【C:実個体記録】Royal Constrictor Designs
親候補としては、好みの表現を持つBlack Pastel ClownとClown、またはBlack Pastel het ClownとClownなどが考えられます。Clownを発現した子を目標にするなら、両親ともClownを発現しているか、Clownアレルを保有している必要があります。片方だけがClownで、もう片方がClown非保有なら、最初の世代の目標はClown保有個体の作出になります。
LeopardやGHIも加えた完成像を考える場合は、作出者のBlack Pastel Leopard Clown、GHI Black Pastel Clownの記録が比較材料になります。ただし、多くのモルフが入るほど、どの要素が好みの表現を作ったか分けにくくなります。モルフ数を増やす前に、基礎となるClownコンボと成体の表現を確認したいところです。【C:作出者記録】JKRのLeopard Clown作出記録、JKRのGHI Clown作出記録
Black Pastel Piedを目標にする
Piedでは、白い面積だけでなく、色柄が残る部分の暗さと模様の形が親選びのポイントです。白を多く見せたいのか、暗い模様を広く残したいのかを分けて考えます。
Black Pastelには白い部分を増やす傾向があるという繁殖者の観察がありますが、親と同じ白黒の配置が再現される保証はありません。好みの親だけでなく、その兄弟や過去の子の表現も比較材料にします。【C:繁殖者の観察】Justin Kobylka、2014
親候補は、ブラックパステル1コピーのBlack Pastel PiedとPied、またはBlack Pastel het PiedとPiedなどです。Piedを発現した子を目標にする場合も、両親のPied発現・保有情報が必要です。Black Pastel Piedと、スーパー体を含むPanda Piedは区別して選びます。
相手にBlack PastelやCinnamonを重ねない
これらの計画では、Black Pastel側の親は1コピーを基本とし、相手はBlack PastelとCinnamonを持たない個体を選びます。多重コンボでは表現が隠れている場合もあるため、外見だけでなく由来・親情報・対象を確認した検査結果を照合します。
het Clown、het Pied、possible hetを同じ確定情報として扱わないことも重要です。検査を使う場合は、目的のモルフと系統が対象かを確認します。【C:検査提供側の案内】Cltch/RGI
親の健康状態、近縁関係、産卵・孵化・成長の経過を記録し、見た目の完成像と健康な繁殖を両立する計画にします。スーパー体や8 Ballを作る組み合わせへの懸念は、「健康・繁殖上の注意」を参照してください。
健康・繁殖上の注意
主に注意が必要な組み合わせ
スーパーブラックパステルには、下顎や吻部の形態異常、脊柱・尾の曲がり(kinking)への懸念があります。REPTAの現行方針も、下顎形成の問題と脊柱・尾のkinkを理由に、会員によるSuper Black Pastelの繁殖・販売等を認めない立場を示しています。これは専門団体の方針であり、発生率を測定した疫学研究とは区別します。【B:専門団体の一次方針】REPTA Deleterious Gene Policy
Ralph Davisの2005年の記録にも、スーパー体で見た吻部・頭部の変形やkinkが記されています。duckbill(ダックビル)という通称だけで軽い外見差と決めつけず、実際の顎の形や機能を確認する必要があります。【C:直接観察の記録】Ralph Davis Reptiles
8 Ball(Black Pastel/Cinnamon)についても、繁殖者は頭部・脊柱の異常を懸念して作出を避ける方針を公表しています。「別の名前のモルフ同士だからスーパー体の懸念を避けられる」とは考えないことが大切です。【C:繁殖者自身の方針。頻度の研究ではない】Inspiration Exotics
頻度と重症度を一律には扱わない
今回確認した資料から、全系統に共通する発生率や、どの個体が発症するかまでは示せません。「必ず異常が出る」「必ず致死になる」とすることも、「生存個体がいるから問題がない」とすることも適切ではありません。
また、スーパー体や8 Ballの記録を、そのままブラックパステル1コピー個体全体の同じ発生率として当てはめることはできません。一方で、1コピーなら個体の健康確認が不要になるわけでもありません。
繁殖判断と個体の確認
黒い表現だけを目的にBlack Pastel同士、またはBlack PastelとCinnamonを組み合わせることは推奨しません。ClownやPiedなどを使う場合も、両親にこれらのアレルが重ならないか確認します。
外見上の異常がない親、別血統との交配、孵卵条件の変更によって、リスクが完全に除かれるとする検証も今回の資料からは確認できません。孵卵温度を変えれば解決するという方法を、確立した対策として案内しません。
顎のかみ合わせ、背骨・尾の形、移動、採餌・嚥下、排泄などに異常がある個体は、爬虫類を診療する獣医師に評価を依頼します。異常のある個体を、繁殖で確認するための試験交配に使わないことが重要です。
歴史・由来
2000年代初頭の繁殖記録
ブラックパステルは、2000年代初頭の暗色系モルフの繁殖記録に登場します。World of Ball Pythonsは初作出者をGulf Coast Reptilesとしています。【D:図鑑上の記録】World of Ball Pythons
Ralph Davisの古い資料には2002年の記載とGulf Coast Reptilesのスーパー体作出への言及があります。ただし、Cinnamonの記録も同じページに併載されているため、初作出の年や実績は対象を確認して読み分ける必要があります。【C:同時代資料の記載範囲】Ralph Davis Reptiles
似た外見から、由来と検査を区別する時代へ
その後、Black Pewter、Clownコンボ、Piedコンボなどへ利用が広がりました。Justin Kobylkaの2015年・2016年の記事には、Black Pastel Leopard ClownやGHI Black Pastel Clownの作出記録が残っています。【C:作出者記録】2015年の記録、2016年の記録
現在はBlack Pastel、Barnhart系、Cinnamonが別の検査項目として案内されています。昔からある名称を尊重しながらも、系統、親情報、検査対象を明記して扱うことが重要になっています。【C:確認日現在の検査案内】Cltch/RGI
不完全顕性(不完全優性)Incomplete Dominant
1 コピーでも見た目に出て、2 コピー揃うと「スーパー体」と呼ばれる別の見た目になります。業界で長く「共優性(Co-Dom)」と呼ばれてきた型です。
参考資料
- ANew insights on facultative parthenogenesis in pythonsWarren Booth ほか ・ 2014
- AIn Silico Analysis of Gene Expression Network Components Underlying Pigmentation Phenotypes in the Python Identified Evolutionarily Conserved Clusters of Transcription Factor Binding SitesKristopher J. L. Irizarry; Randall L. Bryden ・ 2016
- CAvailable Tests — About Our Test GradesRare Genetics Inc.
- COrdering Genetic TestsCltch(Rare Genetics Inc.公式取扱パートナー)
- CThe Matrix — BLACK_PASTEL / Proven-Unproven TraitsRalph Davis Reptiles(Graziani Reptiles寄稿文を含む) ・ 2005
- CUnderstanding Allelic Genes in Ball Pythons!Warwick Von Hagen(Strictly Snakes)、編集:Justin Kobylka ・ 2016
- CAre Piebald Patterns Truly Random?Justin Kobylka ・ 2014
- CProject Overview: Leopard Clowns (new photos added!)Justin Kobylka ・ 2015
- CBrand New GHI Clown Combos!Justin Kobylka ・ 2016
- CBlack Pastel Clown BreederRoyal Constrictor Designs
- CPanda PiedRoyal Constrictor Designs
- BDeleterious Gene PolicyREPTA(Reptile and Exotic Pet Trade Association)
- CBreeding EthicsInspiration Exotics
- DBlack PastelWorld of Ball Pythons
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